いくつ挙げたかもわからないが、それらの尽くは店長に否定されている。
「店長、いい加減二人が辞めた理由を教えてよ」
「さて、どうしましょうか」
どうしてここまで隠すのだろうか。
もしかして、私は店長にからかわれているのかもしれない。実はたまたまシフトが合わなかっただけで、二人とも辞めてないのかもしれない。そうであってほしいと思う。
「ねぇ、実は二人とも辞めてないんじゃないの?」
「それはないですね。二人とももういませんよ」
「じゃぁ、なんで辞めたのよ」
「さぁ?」
私はだんだんイライラしてきた。このオッサンをどうしてくれようか、というところまで考えそうになっている。今なら他に人もいないから、こっそり処分しても誰も気がつかないかもしれない。
その時、珍しく私以外の客が店に入ってきた。
40前後らしいと見える男性だった。その男性客は店長の姿を見ると、少し残念そうな顔をした。
「あれ? 今日もマスターなんだ」
この人も二人の姿を最近見ていないようだ。それにしても、この店長に「マスター」という呼称は似合わない。
「もうあの二人はやらないの? それとも新しいネタを仕込み中?」
男性客の言葉に私は思わず振り返った。
やらないとはなんだろうか?
ネタを仕込むとはなんだろうか?
私は今きっと間抜けな顔で、入ってきたばかりの男性客を見ているだろう。こんな間抜けな顔は久しく他人に見せていない。
男性客は間抜けな顔をした私を不思議そうに見ながらも、私の隣に座る。
「君よくここに来てるでしょう。でも、気づいてなかったのかい?」
「……気づくって?」
「本当に知らないんだ。なんかおかしいな、って思ったこともないの?」
男性客は珍獣を見るかのような顔で、私を見ている。
その顔を見かえしているうちに、なんとなくわかってしまったような気がする。というよりも、こんな理由ならわかりたくなかった。
言われて考えてみると、三人の内誰か一人に話したことは、他の二人もいつの間にか知っていたりした。同時にカウンターの内側に入っていることを見たことはないけど、どこかで何かの折に話したりしたのだろう、としか思ってなかった。
客の顔を見て最適なものを勧める、ということも、店長くらい年がいっていればできても不思議ではなかったが、喜多君のような若い子ができるということは不思議だった。
三人が同一人物なら、三人とも同じ客の情報を知っていて当たり前。一人ができることは皆できて当たり前だ。
店長を見ると、曖昧に笑っている。
「……ていうか、無理でしょう。あんなに若く化けるのは」
店長の顔にはいくつかの皺が刻まれている。いくら薄暗い店内だとはいえ、化粧で簡単にごまかせるとも思えない。そんな簡単に皺がごまかせる化粧方法があるなら教えて欲しいくらいだ。顔の形だって違うというのに。店長とこの男性客で私をからかっているのだろうか。
「マスターは特殊メイクの達人だよ」
「は?」
「今度ハリウッド映画のメイクを担当するんだよね、マスター。だから店も閉じちゃうんでしょう。寂しくなるなぁ」
「撮影が終わったら、また戻ってきますから」
まさか、二人が店長のメイクで作り上げた人物だったとは。さすがにこれは思いつかなかった。
店長のメイクの腕も驚きだけど、それを演じ分けていた技量の方が凄いと思うのは私だけだろうか。
こんな店をやっているより、役者の方が儲かるんじゃないだろうかと思ってしまう。
それよりも、来週から金曜の夜はどこで過ごそうか……。



